白蓮の喫茶店

ようこそ辺境の喫茶店へ。少しでもまったりして頂けましたら幸いです。

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少女は悲しんでいた。 その一

「私の言うことはお前に分かりやすいように意訳してるのであってそこでお前が間違って解釈しようが私の言わんとしていることに変わりはない。
つまりお前の理解力が乏しいだけであって私が間違っていることを言っているわけではない」


何故あたしは2ドア式冷凍冷蔵庫から説教を喰らっているのだろう


「まあねえ。 その年頃なら悩みが多いのも当然よね」


何故あたしは埃を被ったダイエット器具に励まされているのだろう


「一人で溜め込まないで、キトハお姉ちゃんに話してみて。 君の悲しさをうちと半分こ、できたらいいな」


何故この金髪の女性は何も着ていないのだろう


あたしはただの喫茶店に入ったつもりなのに

  

「まぁこれでも食べて落ち着くといい」
冷蔵庫のドアが自動的に開いたかと思うと中から裂きイカの入った袋が飛んできた。 飛来する裂きイカ。 裂きイカは少女の座ってるカウンターの目の前に落下した。
落下した裂きイカの袋の有様を見た少女は、突っ込みを入れるしかなかった。


「……ここって喫茶店でしょ。 もう少し洒落たものっていうか……」
呆れながら冷蔵庫に訴えると冷蔵庫は中のものを揺らしてるような音をたてながら口を開く。
いや、口を開くという表記はおかしい。 声を発したというべきか。

「喫茶店の主がいない今、ここは喫茶店として機能していない。 更に私は主が不在の時はここの管理を任されている。 つまり今この建物は私が支配している空間。 支配者が好き勝手していいのは当然の事だろう」

一度反論すると長々と屁理屈で返されるのは非常に面倒で腹立たしいので、適当に流そうと少女は考えた。

「私は善意であんたに裂きイカを、私の大が付くほどの好物である裂きイカを譲ったのだ。 素直に食してくれ」
どうやら冷蔵庫なりの愛情表現であるらしい。

「……ありがと」
少女は袋を開けて裂きイカを数本つまみ、口に含んだ。
甘くてしょっぱい。 口の中から唾液が溢れてくる。 裂きイカは唾液と絡み合い、より味が出てくる。
おいしい。

そう少女が感じて裂きイカを次々と口にしていた時、
「で、あんた。 どうしてここにやってきたのだ」
冷蔵庫は問いかけた。
気がつけば裂きイカの袋は縦に裂かれ拡げられており、裸の金髪美女と埃が被ったダイエット器具もその深い味わいを楽しんでいた。

そちらに意識を向けていると、少女に無視されたと感じた冷蔵庫はまた中身をごとごと言わせながら問うた。
「適当に足休めに立ち寄ったわけではあるまい。 明確な目的が無い者はここに進入するのは不可能だ」
確かにこの世の摂理から考えるとこんな空間が存在することはまずあり得ない。

「再び問う。 あんたがここに訪れた理由を」
「あたしがここに来た理由……」


少女には理由があってこの喫茶店を訪れた。 
少女は悩みを抱えている。 しかし少女は口下手で説明が下手な上、その悩みを他人に打ち明けることに恥ずかしさを感じていた。
頭の中を色々な思考が交差して、胸が苦しくなって、何も出来ない自分に情けなくなって、償いがしたくても自分は非力だと決め付けて
苦しくてどうしようもなくなった時は、進入禁止に指定された中学校の屋上に上って、横になって雲の行く末を、陽が落ちる様を眺めていた。
気がつけば少女の目の前はぼやけ始め、目頭には涙が溢れんばかりに溜まっていた。

でも、少女は妙なところ意地を張る。 思いきり声をあげて泣き叫ぶようなことはせず、しゃくりあげてただ涙が止まるのを待つ。

涙を流していると屋上のドアを誰かが開けた音が聞こえたので、少女は焦って隠れようとして、転んだ。
しかしこの屋上には見事に何も無いもので、すぐに見つかってしまった。

「またお前か、ここは進入禁止だって書いてあるだろうが、馬鹿野郎」
緑のコートにぼさぼさの長髪、無精髭を生やした男が少女に注意をした。
この男に注意をされたのは初めてではない。 今回が、三度目だ。
この男は、少女のクラスの担任だ。

「あんただって、仕事を抜け出してはタバコばかり吸ってるじゃないか」
転んだ体勢のまま少女は担任に反抗した。
担任はそんな言葉も全く気にする様子を見せず、『バット』と金属製のオイルライターを取り出し、火をつけた。
「うるせえな。 これが無きゃやってられないっていう話だよ」

しばらく二人は黙って目の前の景色を眺めていた。
景色を眺めて何を感じているのか、はたまた視界に入ってる物に対して何も感じず別な事を頭の中で考えているのか、お互い心は分からなかった。

「また泣いていたのか」
口を開いたのは担任の方だった。

「……まあね」
少女の目元は少々腫れているものの、もう涙を流すような様子は見せなかった。

「何が悲しい。 悩みでもあるのか。 いじめでも受けたか」
「ううん、そんなんじゃないの」
少女は間髪を容れず否定した。 担任に勘違いはされたくなかったようだ。
「いじめを受けている生徒ははじめは否定する子が多い。 ……俺はお前を信じてもいいのか」
「お好きにどうぞ」

タバコは吸い終えたのか、コートのポケットをまさぐっている。 タバコケースを探しているのだろう。
面倒くせえななどと口にしながらも、吸殻はタバコケースに丁寧に閉まっていた。

「……だとしたら、人に言えねぇ、悩みか」
長い髪が風に揺れ、担任の真剣な眼差しを垣間見た。
少女はすぐさま担任から目を逸らし、黙って頷いた。

「……そうか」

何だかんだ言いながらも少女はこの担任を慕っており、何でも話が出来る仲ではあった。
両者とも人間関係に少し不器用なところがまた、二人を仲良くさせる要因になったのかもしれない。

「ほれ、紙とペン」
担任は手を差し出し要求する。
「は? 何するつもりよ」
「いいから、出してみろ。 それに教師に対して『は?』は失礼だと思わねえか、おめえ」

言われたとおりに小さくまとまったメッセンジャーバックから、ペンと手帳を差し出す。
ペンは中学校の卒業の時に友達と交換した大切な思い出の品、手帳は少女の好きな羊や兎や犬のイラストが描かれたお気に入りの手帳だ。
「……意外と可愛らしいもの持ってんな、おい」
「意外とは余計よ。 で、何するつもり?」

この少女の担任という男、外見は大雑把で無神経に見えるが、
「このページにちょっと地図を描いてもいいか?」
と断りを入れるあたり、紳士なのかもしれない。

さらさらさらあっと、と口ずさみながら手帳に地図を書き入れていく。
少女は体育座りをしながら完成を待っていた。

「……ここに、行ってみろ」

紳士かと思っていた担任だが書き終えたと同時に手帳の1ページを破いて少女に渡したあたり、やはり雑で乙女の気持ちなど分からぬ男であった。


担任の話によればこの喫茶店は悩みを抱えてる人にはサービスをしてくれるらしい。
別に形だけのサービスを受けたいわけではないのに、そもそもサービスの基準が変な店だと思いながらも、少女は昭和の町並みを感じさせられる通りにある、目立たない小さな喫茶店の扉の前に立った。
窓ガラスから中を覗いてみようとするが、何か霞が掛かったかのように見ることができない。
あるいは、そういった仕上がりのガラスで、外から中を覗かせないための配慮なのかもしれない。

私はやや緊張感を覚えながら、冷たくなった手で扉に触れた
秋頃で冷えるのに、金属の取っ手は冷たく感じなかった

カラン、コロン

店内に入って辺りを一見してみると何の変哲も無くありきたりな、木造であたたかな雰囲気の小さな喫茶店にしか見えない。
しかし少女にはドアが閉まりベルが鳴り止み静寂に包まれた瞬間、まるでこの世のものとは思えないような不思議な雰囲気が店中から感じられた。
不気味な雰囲気ではない。 もとい体は浮いてないのだけれど、浮遊感を感じるというか、とにかく足を踏み入れた瞬間から現実味を感じていなかった。

そして何より、誰もいないはずなのにカウンターに置いてある、コーヒーが淹れられた白磁のコーヒーカップが少女には気になってしょうがなかった。
確かにそこにあるのだけれど、手に取ろうとしたらふっと消えてしまいそうな、そんな不確かな存在に思えた。

近づき、恐る恐る手を伸ばし、コーヒーカップに触れようとする。
もう少しで触れる。
触れた。

熱さが伝わってくる。

それもそうだ、コーヒーなのだから。 熱いのは当たり前だ。 何を馬鹿なことを考えているのだろう、あたしは、と少女が考えているうちに予期せぬ事が発生した。

「お嬢さんもここのマスターが淹れたコーヒーが好きなのかい? 悪いけど、それはあたしのなんだ」

少女は身震いした。 もちろん声が聴こえた事に対してだ。 誰もいないこの喫茶店で、確実に。
声がした足元の方に目をやると、椅子に埃が被ったダイエット器具が乗っかっていた。
以前はよくCMで目にしていた、負電荷云々の効果でたるんだお腹や揺れる二の腕に抜群だと噂されていたベルト型のダイエット器具であった。
まさか声の主が無機物なわけあるまい、と思いながら少女は眉を引きつらせながら笑っていた。

「あぁ、この姿じゃコーヒーが飲めないって思ってたのかい?」
その声と共にダイエット器具は突如煙に包まれ、姿が見渡せなくなる。

煙が晴れた頃には二十代後半と思われる容姿の女性が席に座っていた。
「こうして、楽しむのさ」
女性はコーヒーカップを手に取り、コーヒーを口に含む。
その姿は茶髪のショートカットに褐色の肌、お腹に余分な肉は一切無く腰はくびれており、二の腕はほっそりとしていて美しい。
まさに、女性の理想とする体型だった。

しかし少女はそんな女性の体付きを観察することも無く、あまりの衝撃に喫茶店を飛び出し走り去ってしまったのだった。


少女はまたこの喫茶店に訪れる事になる。




※稚拙な文章でしたが、最後までお読みくださりありがとうございます。
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